モンステラは観葉植物として室内で楽しむイメージが強いですが、もともとは中南米の熱帯雨林に自生する植物です。ジャングルの中でどのように成長しているのかを知ると、葉の形や不思議な気根の意味が見えてきます。ここでは少し専門的に、モンステラの本来の姿について紹介していきます。
モンステラには複数の種類がありますが、「モンステラ」という名前で流通しているものはモンステラ・デリシオーサ (Monstera deliciosa) であるため、ここでは Monstera deliciosa のことを単にモンステラと呼びます。
熱帯雨林に広がるモンステラの分布
モンステラはメキシコ南部からパナマ周辺にかけての熱帯地域に広く自生しています。
さらに、フロリダやマレーシア、インド、オーストラリア、屋久島などでも野生化したモンステラを見ることができます。

モンステラの生存戦略
モンステラの特徴といえば、切れ込みと穴のある大きな葉、蔓のようにのびる茎、茎から伸びる根(気根・付着根・支柱根)です。これらはどのように熱帯雨林での生存戦略と関係しているのでしょうか?

木に登るために光を避けて伸びる茎
植物はよく「移動できない」と言われますが、モンステラは活発に動き回ります。
種子が地面で発芽し、最初は光を避けて地面を這うように茎を伸ばして成長します。茎のいたるところから根が出て、地面に根を張るためどこが根元なのか?ということはすぐに分からなくなります。
植物には光が必要なのに、光を避けて成長するのは変だと思われるかもしれませんが、そうすることで大きな木を見つけやすくなるメリットがあります。
動き回って大きな木を見つけられたら、その樹皮に根を張り巡らせながら、やっと明るい上の方に向かって成長を始めます。こうして暗い林床から、やわらかな光が届く高層部まで活動の場をよりよく変えていきます。

このようにモンステラは、成長する方向を支えとなる巨木を見つける前後で切り替える仕組みをもつことで密林での苛烈な光と場所の奪い合いに適応しています。
成長とともに変化する葉の形
種を蒔いたり挿木で増やした後、最初に出てくる葉は切れ込みや穴のないハート型です。この段階ではモンステラらしい特徴はほとんどなく、植物の種類を判別するのは難しいでしょう。
しかし、新しい葉が展開するにつれて、切れ込みや穴のある大きな葉に変化し、徐々にモンステラらしい姿になっていきます。自生地でも同様で、幼いモンステラはシンプルな葉を持ち、成長とともに特徴的な葉へと変化していきます。

環境への適応をする過程で、つまり生存戦略をもつために、独特な切れ込みと穴の空いた葉が生まれたのは確かです。葉の数は、茎の長さに比例し、さらに茎の長さはモンステラが樹木を支えとして伸びた高さに対応します。そのため、高さで変化する環境要因がその形に大きな影響を与えたと推測できます。
太陽光の影響
まず、太陽光について注目して考えてみましょう。
高温な条件では光合成に必要な酵素の活性が落ちるため、光合成が行われにくくなります。少ない葉で多くの太陽光を受けてしまうと、それらの葉が高温になり光は十分あっても光合成できなくなります。
また、熱により細胞も壊れてしまい葉が傷んでしまいます。葉に切れ込みや穴があれば、上層の葉だけでなく、下層の葉にも光を分散させることができるため、葉の温度を抑えられます。また通気性もよくなり、これも温度を下げる効果があります。
このように葉の切れ込みと穴により、光合成の効率を高めることができます。
風の影響
次に風についてはどうでしょうか。
熱帯の植物は強い風に晒されます。特に森林の上の方では強い風を受けることになります。苦労して作った葉が裂けたり飛ばされたりしては面倒ですし、風で葉が引っ張られたことで茎が折れたりしても大変です。
しかし、葉に切れ込みや穴があれば、変形もしやすくなるため損傷を軽くできそうです。また穴には避け目が広がることを食い止める効果も期待できそうです。
また、モンステラは樹木を支えに利用して成長するため、風をかわすことができた方が、樹木から剥がされにくく有利になりそうです。
雨の影響
さらに雨についても関係がありそうです。
熱帯雨林では強い雨が降ります。葉に水が溜まりすぎると重みで折れやすくなってしまうため、排水しやすい形状が求められます。
樹木に張り付いたモンステラは、外側に葉を放射状に下向きに伸ばします。このとき切れ込みや穴のない葉だったら、外側に排水するばかりで根に雨水が当たらなくなってしまいます。
水分を吸収するためには、葉にあたる雨水を排水しつつも、支えとなる樹木の樹皮の方にある程度、雨水を通せる方が都合がいいです。切れ込みや穴は、根のある樹皮の方へ雨水を通すため、給水についてもメリットがあります。
熱帯の自然環境に適応するように葉に切れ込みや穴を持つよう進化したモンステラは、その独特な形状が人々の関心を引き、世界中で栽培されるようになりました。これもまた、生存戦略のひとつと考えられるでしょう。
自然の姿を知ると育て方も見えてくる
よく鉢植えでモンステラを育てていると、茎が横に伸びて樹形が崩れてしまったり邪魔になってしまったりすることがあります。モンステラ本来の育ち方を知った上でこれをみると、支えとなる樹木を探している段階なのだと分かります。そこで、「支柱を立てそこに根を張らせれば、光を求めて上に伸びるように成長の方向を切り替えられるだろう」という考えができるようになります。
さらに、新しい葉になるほどモンステラらしい形になることが分かれば、どんどん新しい葉を作ってくれるように古い葉を切り落として次の葉を早く出させるようにするような工夫もできます。
モンステラに限らず、自生地での育ち方を調べることで、より柔軟に育て方を考えることができるようになります。
必ずしも自生地の環境を揃える必要はありません。「こう育って欲しい」というイメージに関係していそうな自生地の特徴だけを抜き出して試してみるだけで良くなることはよくあります。ぜひ、成長をデザインすることに挑戦してみてください。購入したときとは全く違う雰囲気に仕上げることができれば達成感もありますし、失敗してしまってもそれはそれで面白いと思います。

モンステラ
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